CloverPaint雑記

CloverPaintの解説・開発状況・内部仕様・利用法などについてつらつらと

Clover Paint開発の経緯とEfTについて

Clover Paintのv1.00を公開してから、今日で(この記事公開は一日遅れましたが)ちょうど一年になります。

いい機会なので、私自身何を考えてClover Paintを作っていたのか、どうしてこんなツールになったのかを、ここで出来る限り思い出し、振り返ってみたいと思います。

EfT版のアプリ内課金が比較的高い理由についてもその流れの中で説明します。

 

わりとウザくて泥臭い自分語りになっています。

ツールを利用するうえで役立つ情報は何もないので、興味がない人はここで読むのを中断した方が良いでしょう(時間の無駄です)

 

 

Androidアプリ開発以前

Clover Paintに連なる、Androidでのアプリ開発を始めたのは2012年4月のことです。

それまでフリーのゲームプログラマーとして色々な会社を転々としていた私ですが、とあるエンタメ系ネット企業(微妙な言い回し……)の外注仕事がクライアントの組織改編の都合(?)で三ヶ月弱で打ち切られることになり、その仕事の後に始めたのがAndroidアプリ開発ということになります。

 

 

それまではコンシューマ系ゲーム会社でプログラマーとして仕事をすることが多かったのですが、市場規模の推移を見れば一目瞭然、昨今そんな仕事は殆どありません。(あるとしてもパチスロ組み込み系が殆ど。それもその頃はすでに落ち目)そもそも私自身が据え置きコンシューマ系ゲームをやらなくなって久しいので、自分が楽しめない業界の仕事を無理してやってもなぁ……というのが本音でした。

そこで心機一転、ネット系の会社もいいんじゃないかと思い、その会社の扉を叩いたのがその前の年、2011年の11月頃なわけですが、実際に配置されたのはPS Vita用のアプリ制作チームでした。職歴はちょっとした事では振り払えないものです。(完全に違う業界に行けば別でしょうが) 

 

その会社の外注仕事が2012年3月末で終わり、次の仕事はどうするかと考えた時に思い出したのが、その会社の人事というかディレクター系の人に連絡を取って最初に話して痛感したことでした。つまり、新しく仕事を探すには相手にわかりやすいよう、自分の技術力を示す個人としての作品を作っておいた方がいいな、ということです。 

その頃の流行りと言えばDeNAやグリーです。据え置きコンシューマ系畑の人間として、iモード等携帯アプリの仕事なんかはあまりにもつまらなく思え、それまで蹴っていたのですが、昨今はスマートフォンなどというものが流行っていて、近い将来かなり本格的なゲームがスマートフォンで動くようになるだろう……という予想もありました。 

それならツテを辿ってiPhoneAndroidの開発をしている会社に……と普通はなるんでしょうが、そこでさっきの「何か作品を作っておいたほうが話が早いのではないか?あらかじめ少しは環境に慣れておいた方がいいのではないか?」というような考えが浮かんできて、スマホなら自分一人で開発環境も揃えられるし、なんか軽く簡単なゲームでも作ってから、改めて仕事を探すか……ということになったわけです。

 

 Android開発当初

とりあえず一人で作れるゲームでスマホ向きなもの・・・ということで色々考えた末に、比較的グラフィックパーツが少なくてもそれなりのゲーム性が確保できるストラテジ系のゲームにしてはどうだろうと考えました。

最初はターン制で、その後操作に慣れたら徐々にリアルタイム性を採り入れて操作とゲーム難易度を上げていく・・・そんな感じです。

しかし、そう当たりをつけてAndroidの開発環境を見てみると、UIまわりで環境整備されているのはJavaでの開発だけで、しかもJavaを使うと重すぎてゲームにならないということがわかってきました。C++など、いわゆるネイティブ言語と呼ばれる環境と比べると、場合によっては数百倍の速度差が出るし、JavaOpenGL(3D表示用のAPIですが、2DでもGPUを叩くときに使う)を使うと定期的にガベージコレクションが発生してカクカクするのです。

 

一応AndroidにもNDKといってC/C++で開発できる環境が用意されてはいるのですが、これは本当にむき出しの通常の開発環境だけで、Androidでのサポートライブラリは一切ありません。フォントを読みだして文字を表示することすら、すべて自前で用意しなければならない……そんな状態です。しかし私は元々コンシューマ系ゲーム開発者で、そんな事はむしろあたりまえの世界でずっと生きてきたので、そこでは臆しません。

 

というわけで、C/C++の環境で、フォント表示や簡単なゲーム用のメニューやマップを動かせるようにしようという方針を立てました。しかし、そこから作るとなるとちょっとしたストラテジ系ゲームを作るということすら、かなり遠い目標になります。

 

そこでマップやメニュー表示を作りながら、それを組み合わせて出来る1番手軽なアプリはなんだろう?と考えた所、ああ、手書きメモアプリというジャンルがあるじゃないかと思い至ったのが、後々Clover Paintを開発することになる決定的な瞬間だったと思われます。

 

アプリ開発進捗

私は毎日テキストにその日やった作業を書き残すようにしています。

f:id:CloverPaint:20140120115629p:plain

そのテキストを検索してみると、メモ版の記述が最初に見つかったのは2012年5月11日でした。この頃にはすでにメモを作ろうという計画を持っていて、プロジェクトを作ったということはCloverMemoというアプリ名もこの辺りで決定していたものと思われます。4月頭からなので1ヶ月と11日で、OpenGLを使ってキャンバスを表示し、ピンチ操作を実装するところまで作っていたようです。

 

その後メモ版がリリースされるのは11月29日なのですが、Paint版も作ろうという方針が決まったのはそのだいぶ前で(前述のテキストで最初にPaint版に関する言及があらわれたのが8月20日なので)8月頃のようです。これにはメモを作っていてそれが結構面白くなってきたのと、Androidで個人開発の有料ペイントアプリが結構売れていた(LayerPaintがその頃すでに1万本程度売れているのを見た)ことが大きく影響しています。(まあこれに関してはかなり見通しが甘いということが後からわかりますがそれはまた別の話)

 

そんなわけでPaint版のプロジェクトを作り、メモ版が形になってくるにつれてそろそろ公開に向けて色々準備しようかなということでTwitterを始めたのが2012年9月15日頃だったようです。

(Clover Paintという名前を検索してみたら昔ザウルスに同じ名前のペイントソフトがあったようだと気づいたのもこの頃のはずで、ここで「Cloverって名前色んなプロジェクトやアカウントにつけちゃったし、サポートが終わったハードも違うソフトの事は別にどうでもいいだろう」と考えたのが後々ちょっとした騒動の原因になるわけですが、まあこれに関してはザウルスの作者さんとその後連絡を取り、お互い了承・解決済みなのでいいでしょう)

 

  というわけでClover Paintが基本ポートレイト固定だったり、Androidの標準UIを完全に無視していてすべてOpenGL自前描画だったりするのは、別に移植性が~とか、そういうことを考慮したわけでは全くなく、単に最初はゲームを作るつもりだったから、ということです。ウインドウを半透明表示したり、かなり凝ったUIを自由に作れることに繋がったので結果オーライですが。

 

アプリリリース後

メモ版アプリをリリースしたのは2012年11月29日、その後Paint版をリリースしたのが一年前の2013年の1月19日なのですが、開発当初、私が使っていた端末はN-05Dという、普通の4インチサイズのスマホでした。年末頃タブレットサイズのものも試したいと思いKindle Fire HDを買いましたが、これももちろんデジタイザーには対応していません。

しかし、N-05Dは指の触れている面積等で変化する静電容量を筆圧として渡してくれるようで、それを使って一応筆圧だけはメモ版公開当初から対応していました。

 

 

そんな感じでメモ版を公開した直後のことですが、Cloverメモを買ったとある海外のゲーム関連のデザイナーから非常に熱いメールが届き、その中の要望で「私はGALAXY Note 10.1を使っているんだが、スタイラスのボタンに対応できないか?」というものがありました。

当時ペン付きAndroid端末にそれほど興味がなく、GALAXY Note 10.1についてもそれまで知らなかったような私が、そのユーザーの熱意に押されるような形でGALAXY Note (初代)を買ったのが、2012年の年末~2013年始頃です。

 

驚きましたね。これは使いやすいと。

 

スタイラスで使うと、同じモバイルのペイントアプリがここまで化けるということに対する認識が甘かったと痛感し、早速その後のPaint版のリリース前にボタンへのショートカット登録や、キャリブレーションを実装して、1月19日にPaint版をリリースしたわけです。

 

ところでヤフオクで買ったGALAXY Note (初代)に関しては、S-Penへの対応が終わってすぐにまたヤフオクで売ったのですが、やはりスタイラスがないと不便だと感じるようになり、どうせ買うならタブレットサイズのものの方がいいのではないかということで、Paint版リリース後2月頭くらいに(並行輸入品ということで不安はありましたが)GALAXY Note 10.1を買いました。

 

そして、Paint版をGALAXY Note 10.1に入れて使ってみた瞬間、これは非常に大きな失敗をしてしまったなと後悔しました。

 

どうして私がそう感じたのか、この時点でわかる人はいないと思うので、これから順を追って説明していきますが、簡単に結論を言えば「Paint版はGALAXY Note10.1で動かすことを考えると、安すぎた」という事です。

 

最近はなんでも、フリーミアムだなんだと、無料のサービスでネット上は溢れています。このブログにしてもそうですが、(あたりまえですが)本来そこには人件費なりネット管理費などといった費用がかかっています。

無理な競争で低価格を追求した結果は、邪魔な広告や、品質の低下、歪んだ費用負担などといった形で結局はその業界の構成員や、頻繁に利用するユーザーが不利益を被ることになります。しかし、だからといって一社が有料で高品質なサービスを提供しても、1ユーザーが金を払っても、全体としてこの状況は覆ることはないでしょう。その選択で全体としては全員が損をすることになるとしても、「自分だけは得をしたい、あるいは損をしたくない」という行動を制限できない以上、こうなるのはどうしようもないことです。

 さて、極論として仮にLayerPaintが無料だったとしましょう。前述の通り、恐らくClover Paintはこの世に生まれていません。LayerPaintが有料ソフトで、それなりの数売れていたからこそ、もしかしたら儲かるかもしれないということで、Clover Paintが作られたわけです。身も蓋もないですが、当たり前といえば当たり前でしょう。

これと同じ事で、仮に私がいまClover Paintを無料で配布しだしたとしたらどうでしょう?恐らく後続のアプリ・あるいは現存する他の有料アプリにとって、良い影響があるようには思えません。

 

あり得ない話だと思われますか?そうでもありません。

白状すると私は、常にClover Paintを無料にしてしまいたい衝動に駆られています。

それについて考えない日は無いと言っていいくらいです。

 

というのも、私の当初の目的を考えれば明らかでしょう。本来私はゲーム開発者で、別にペイントアプリにそこまで執着があるわけではありません。作り始めれば確かにそれなりに奥深くて面白いことは面白いものの、私でなければ作れないようなものでもないし……といったところです。

もっと切実な問題は、大して儲からない……というか、そもそも最低限の生活すらままならない程度の、生活保護の半分よりさらに低い程度の利益しか出ていないということです。もはやこれでは趣味かボランティアです。趣味やボランティアなら、もういっそのこと有料アプリはやめて金は別の仕事で儲ければ良いということになります。本来の目的であった「こんなアプリ作りました」という実績を利用する方向で考えれば、無料にして出来る限り知名度を上げたほうが、結局私にとっても利益になります。それでなくても普通に仕事を探せば、Clover Paintのアプリ販売で得られる利益の少なくとも5倍~10倍の稼ぎは簡単・確実に得られるわけです。

むろん、そうなった場合そちらの仕事が忙しくなり、他の山のように放置された無料アプリ同様、Clover Paintの更新はほぼ完全になくなるでしょう。ネット乞食は喜ぶでしょうが、新規にAndroidでペイントアプリを作ろうとする人にとっては、最低でもClover Paintを超えなければ有料アプリとして出せなくなり、高い壁となるはずです。

単純に私個人の利益を考えれば、有料アプリとして作り続ける意味は殆どないと言っていいのに、それでもなぜ作り続けるのか?その理由は大きく分けて3つほどありますが、2つはあまりにも個人的なのでおいといて(Twitterでの私の発言から想像はつくでしょう)、最後の1つは、自分の都合でこの業界の発展を少しでも阻害するような事は私自身のポリシーに反するから嫌だ、ということになります。

 

そんなわけでアプリにはその分野の発展のために、価値に見合った値段をつけるべきだというのが私の考え方なわけですが、GALAXY Note 10.1で動いているClover Paintはどう考えても500円の価値ではなく、普通に考えて2000円、下手すると人によっては5000円以上払ってもいいという価値を持つものに見えたわけです。(実際Twitter上では、「650円出して使えなかったらどうしようと思ってたけど、これ6500円の価値が有る」というような人もいました。まあスマホサイズのギャラノでのそれは誇張表現だとしても、タブレットサイズではそう感じる人が数割いてもおかしくないと私自身感じました)

 

そしてさらに悪いことには、Clover Paintは様々なサイズがあるAndroid端末のどれで動かしても、それなりに見れるレイアウトになるよう設計したため、タブレットサイズでもそれなりに使いやすいということです。

これがスマホサイズでなければ使い物にならないようなレイアウトであれば、タブレットサイズ用だということで別アプリを出し、それに適切な価格を付け直せばそれで済むのですが、そういうわけにはいかなくなってしまいました。良かれと思って注意深く設計したレイアウトが、値段の付け直しという観点ではむしろ仇になってしまったわけです。

 

そんなわけでClover Paintの公式Webサイトの実装予定の機能の最後にも書いてあるように、EfTを作ることにしたわけです。

ちなみに私が考える各端末での現在のClover Paintの適価はこんな感じです。

通常のスマホ → 500円

7インチ程度のタブレット → 700円

スタイラス付きスマホ → 1500円

スタイラス付き7~8インチタブレット → 2500円

スタイラス付き10インチクラスタブレット → 3000円

 

これでもう、EfTを2000円にした理由はおわかりでしょう。

スタイラス付きタブレットで動作させた時の利便性としての2500円~3000円に対し、現在の値段を引いた2000円、というわけです。

 

実のところ、EfTで実装したドッキングやフローティングウインドウの価値が2000円分あるなどとは、私自身これっぽっちも思っていません。せいぜい素のClover Paintに対して300円か、人によっては1000円の価値を追加できたかどうかといったところでしょう。タッチパネルによる操作を切り捨てることでようやく少し差別化できたといった感じです。

しかし、元がそれほど悪くない中で、スタイラス付きタブレットで動作させた場合の適価に合わせるようEfTに高い値段をつけても、なるべく不満が小さくなるよう、当初予定していたよりは、かなり頑張って色々と実装したつもりです。(私自身が最高の環境に最適化されて動作するClover Paintを使ってみたかった、というだけのことでもあるのですが)

 

EfT版Clover Paintにつけた約3000円という価格は、AndroidでClover Paintを超える、スタイラス付きタブレット専用の優れたペイントアプリを1から作ろうという人のモチベーションを削らないギリギリのラインだと思っています。是非、我こそは思われる人は作ってみてください!(結果について責任は持てませんが……)

 

というわけで、EfTがなぜ高いのかを、Clover Paint開発の経緯と絡めて説明してみました。